9. ジロカストラ~予定外から始まる、谷に恋した日~

部屋の準備まで時間がかかるので、まずお昼ご飯を食べようと思った。お腹が空いていたからランチをお願いしようとしたら、なんとレストランは改装のため営業停止中とのこと…。思わず”夜は?”と2回くらい聞いてしまった。めっちゃショックだったけど仕方ない。

とにかくお腹が空いていたので中心街の観光地に行こうと思い、”バスはいつ来る?”とAdaに聞いたら、送ってくれることに。車の中で、改装は本来3月までに終わるはずだったのに、納期がひたすら遅れていると聞かされた。私が夜のレストランを楽しみにしていたと言うと、”一人分くらいなら何か準備できるよ!”と言ってくれたが、せっかくなので他を探しながら気ままに食べたいと思い遠慮した。ご飯の件も、ベランダでワインを飲みながら引きこもるダラダラ幸せプランも叶わず、少し残念。でも”観光の時間が増えた!”と気持ちを切り替えた。景色がどんどん良くなっていく。Adaが中心街で降ろしてくれた。

歩いてみると、そこはまるで童話の世界。観光客の大通りの店には入りたくない。経験上、値段だけ高く味はそこまで…そして店員がやたらアグレッシブな雰囲気が苦手。中通りを適当に歩くと、可愛らしいお店を発見。景色は良かったけれど感動するほどではなかった。でもお腹が満たされて元気回復。

そこから Castle of Gjirokastra へ。街を見下ろす丘の上にそびえる巨大な石造りの要塞で、中世からの軍事建築と武器博物館を併せ持つ。坂を登ってきたと思ったら、さらに急坂。Beratに続き、ここも急坂の街。まるで急坂が好きでわざとそこに街を作ったかのよう。並ばずに入れ、人も少なく、巨大な城をゆっくり歩き、絶景に見とれた。城からの景色は息をのむほど美しく”谷”というものがこんなにも深く胸に響くのは初めてだった。谷の奥には雪山がそびえ、雲が威厳をもって空を支配していく、そんな力強い景色だった。武器博物館には共産主義時代に使われた銃がたくさんあり、牢屋もあった。一人だと不気味で駆け足で退散。

夜ご飯は観光地から離れた食堂へ。S&P Restaurant。歩いて20分、下り坂、るんるん気分。入ってみると、Beratの食堂と同じく男性たちが一人で食事をしていた。ふくよかで優しそうなママが、最初は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で”おいでおいで”ジェスチャー。

ここには前に食べ損ねた豆スープ mish fasula と肉料理があったので即注文。もちろんワインも! ワインはなみなみ、美味しい! スープの味は私好み。牛肉も柔らかくて最高。ここまで食べたスープ2食とも熱々ではなく温かめで出てきた(たまたまかも)。でもこの温度がまたアットホーム感を出していた。お腹は満たされたけれど、まだここにいたい気持ちもあり、チーズ(Kashkaval)のグリルを追加。これがワインに最高のおつまみ。しかもワインは1ユーロ(約165円)…あざます!

観察していると、50代くらいの男性が一人で来て、結構な量、大盛りパスタ、大盛りスープ、食べてサクッと帰るパターンが多い。みんな顔見知り同士っぽいのに、あえて一人でテーブルで食べる。なぜ男性だけ? と後でAdaに聞くと、”女性は家で仕事していて、男性は怠け者だから外で遊んで一人で食べるのよ”とのこと(笑)。

お会計のとき、ママが私の注文を一つずつ紙に書き、それを見せて確認してくれた。この仕草がとても愛らしく、ほっこり。幸せ気分で歩いているとお菓子屋さんを見つけ、Adaに癒しの差し入れを買うことに。小さな女の子が接客してくれて、英語は話せなかったけど、私が彼女を指差し、ハートマークを手で作って”この中で好きなのを”というジェスチャーをすると通じた。その子が好きと言ったものを数個ずつ、ついでに自分用にも購入。チョコレートのガナッシュボールや、マカロンより丸く真ん中がマシュマロっぽいお菓子を食べ歩き…超美味しい。

さて、帰りはバスがあると聞いてバス停(バス停ではないけどここらへんで拾ってくれるとAdaに言われた場所)の近くのスーパーで尋ねると”バスはない”と言われ、”ないんかい!”と思わず一人ツッコミ。Googleマップで見るとシンプルな道だし、気分も最高でちょうど夕方の光だったので歩いて帰ることに。1時間と表示されていたが、平坦な道で歩きやすい。谷間の道を360度山々に囲まれながら歩くのは最高。山の妖精が楽しく走り回ってるように風が強かったが気持ちよかった。空気がいいって、こういうことだな。沈む夕日と一緒にお散歩。谷の間に光が差し込む、神秘的だった。1時間はあっという間だった。

戻ると、Adaが駆け寄ってきて”どうやって帰ってきたの!?”と。”歩いたよ”と答えると、”You are crazy! 連絡してくれたら迎えに行ったのに”と。確かに歩いている人は誰もいなかった(笑)。でも、あの絶景を見ながらの散歩は本当のラグジュアリー体験、予定変更に感謝。

私の部屋から見えるジロカストラ

私の部屋から見えるジロカストラ

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8. ジロカストラ~石の町へ、苦笑いまじりの揺れの3時間~