11. ジロカストラ ~自由を夢見る宿主~
今日はSarandë。紺碧のイオニア海に面した美しい港町で、古代遺跡と地中海のリゾート感が融合した街。アルバニア人の避暑地として有名で、ギリシャのコルフ島へもフェリーで30分ほどで行けるくらい、ギリシャに近い場所にある。
ネットで調べると、バスは大体1時間くらいかかるのに、出発時間はまばらで明確な情報が見つからなかった。そこでAdaに聞いたら”電話して確認してみる”と言ったけど結局誰も出ず、”バス停に行った方がいい”ということになり、チェックアウト後に旦那ちゃんが送ってくれることに。ちなみにこの時、初めて宿代を払った。チェックインの時はチェックインというか挨拶笑。
旦那ちゃんは、その短い運転の間に色々と話してくれた。独裁が倒れた後もアルバニアに残っていたが、1997年のポンジ・スキーム(政府によるネズミ講)で全てを失い、家族と一緒にギリシャへ逃げたらしい。でも待ち受けていたのは差別と、ひたすらの逃亡生活。ギリシャ語はアクセントなしに徹底して覚えて、アルバニア人だということは隠していたという。まともな仕事には就けず、レストランでの皿洗いや掃除ばかり。ギリシャとイタリア両方に住んだことがあるがどちらもアルバニア人は悪い評判があって、まともな職につけず、自然と違法な仕事で生活するしかなくなった。もちろん犯罪で人を傷つけるのはよくないけど、移民は生きるためにやらざるを得ないこともある。”もし自分だったらどうするんだろう”と考えてしまった…。
彼の話に戻すと、やっとの思いで市民権のようなものを得たものの、自分で事業を始めるのは難しく、仕事の状況は変わらなかった。ただ安心は得られた。そして自由を手に入れたことで、ずっと夢だった”自分のレストランとホテル”がますます欲しくなったらしい。思いは強まるばかりだったけれど、ギリシャでは不可能だと悟り、アルバニア・ジロカストラに家族と戻り、一からワイナリー、レストラン、そして今はホテルを完成させようとしている。マジでかっこいい!!!と思った。感動ストーリーでしょ?おそらく私より若い年齢だけど、賢者!と余裕の雰囲気がとても素敵だった。
最初の年にレストランをオープンした時は、1年で900ユーロ(約15万円)しか収益がなく、かなり厳しかったらしい。本当に少ない額だ。でも彼は諦めずに開拓を続け、私が滞在していた時には部屋が満室になるまでに成長していた。そしてこれも奥さんのおかげだと語っていた。Adaとの関係はお互いを高め合っていて、本当に素敵だなと感じた。二人が話す時のキラキラした様子が印象的だった。
バス停に着くと、大きく”Sarandë”と窓に書かれたバスがあってすぐにわかったが、ドライバーは見当たらなかった。旦那ちゃんが聞き回ってくれて、出発は13:30だと判明。今は11:30…。心の中で”またホテルに戻って送ってくれたらいいな”と少し期待したけれど、アルバニア人からするとそのくらい待つのは普通らしい。その時”だからカフェが多いんだな!”と妙に納得。もちろんコーヒー好きな国民性もあるけど、時間にルーズだからこそ”予定までたっぷりある=最高”となり、ゆっくりカフェ…という流れなんだと勝手に解釈(笑)。
旦那ちゃんは私のスーツケースをバスのトランクに入れてくれて、”13:30発だけど、13:00くらいには戻ってきた方がいいよ”と教えてくれた。スーツケースを置いたままどこか行くのは正直不安だったけど、彼は”アルバニアはめっちゃ平和だから大丈夫”と何度も言っていたし、入れた後も”エンジョイ!”って感じで軽やかだった。
ただ、バス停のカフェは綺麗そうじゃなかったので、信用して散歩がてら別のカフェを探すことに。イタリアだったらスーツケースなんて速攻でなくなってるだろうな…と少し不安になりつつも、確かにアルバニア人は本当にいい人たち。最近の心がけとして”嫌なことが起きても、自分の対応力を試されてるテストだ”と思うようにしているから、あっさり気持ちを切り替えて美味しいフラッペ飲みに行こうへシフト。結局タバコの煙でもくもくしたカフェに落ち着いたけど、不思議と嫌じゃなかった。日本にいる時は絶対無理なのに。調子にのって私も一服とフラッペ。
バス停に戻ると…よかったーーー!スーツケースはちゃんとあった。私がわざわざトランクを開けて確認した、スーツケースの中から何か取ろうという仕草をしてごまかした(バスドライバーが見てたから)。これは自分の不安を消すためだから仕方ない。
今回は普通の大きいバスで、最初はほとんど人が乗っていなかったけど、途中で少しずつ人を拾っていった。
ドライブは本当に綺麗。川は異常なほどの水色で、まるで加工されたみたい。漫画の世界に入り込んだくらい鮮やかな青で、こんなにもバスに乗りながら外の景色を貪欲に見続けたのは久しぶりだった。
そして、あっという間にサランダに到着。ホテルは歩いて5分くらいの場所だった。